新型コロナウイルスが広がり始めた2020年の秋から2021年の春にかけて、そして翌年も、私たちの住む地域によっては少しずつ違いがありましたが、インフルエンザの流行はほとんど見られませんでした。医療機関が報告する数字(定点報告数)も、流行の目安とされる1.0をはるかに下回り、0.02から0.04という低い数値が続いていました。しかし、2022年の秋から2023年の春にかけては、数字が1.0を超え、学校を休まなければならない状況も見られました。コロナウイルスとの同時流行が心配されましたが、幸いそのような状況にはなりませんでした。
本年5月8日、新型コロナウイルスは感染症法における「5類感染症」として位置づけられることとなりましたが、その後もインフルエンザの感染は確認されていて、夏にも人々がインフルエンザにかかる事例が続いています。通常、春には大流行しないインフルエンザですが、今年の春は例年の警報レベルには至らないものの、ある程度の感染が見られました。また、夏になると通常は感染者が出なくなるのですが、今年は夏でも感染が確認されていました。そして、例年は11月からが流行の始まりですが、今年はその2ヶ月前の9月から流行が始まり、10月には注意が必要な状態になってしまいました(10月後半に定点あたり10の注意報のレベルを越え、さらに10月終わりに警報レベル(定点あたり30)に達しています)。
新型コロナウイルスの拡がりを抑えるための手洗い、マスク、距離を保つことは、他の病気の予防にも役立っていました。しかし、その間に私たちは感染症から遠ざかっていたため、体の防御機能が十分に働く機会が減ってしまったようです。これは「免疫負債」と呼ばれ、最近の感染症が増える原因になっていると考えられています。これからはワクチン接種を受けることに加えて、手洗い、うがい、正しい咳の仕方を心がけて、インフルエンザの予防に努めましょう。
国立感染症研究所のデータに基づくインフルエンザの流行推移グラフを提示します(こちらのリンクからご参照ください)
こちらのグラフでは、過去10年間のインフルエンザの活動状況が視覚的に比較できるようになっています。
グラフ内で目立つ赤色の線が、現在のシーズンを表しています。このシーズンでは、1月から3月にかけてインフルエンザの流行が見られました。一般的に春になるとインフルエンザウイルスの活動は落ち着く傾向にありますが、今年はいったん減少したものの、9月中旬以降、流行が再び増加するという珍しいパターンを示しています。例年の傾向にとらわれず、流行の再増加に備えて、手洗い、咳エチケット、ワクチン接種などの基本的な予防策を継続しましょう。